1、大規模工場用地に該当するかどうか
じゃあ、このフローチャートに沿って見ていくわね
まず大規模工場用地に該当するかどうかだけど、これはかんたん。だけど私たちの実務では、きっとほとんど出てこないかな・・・
大規模工場用地の定義については、財産評価基本通達の22-2で下記のように定められているわ
(大規模工場用地)
22-2 前項の「大規模工場用地」とは、一団の工場用地の地積が5万平方メートル以上のものをいう。ただし、路線価地域においては、(14-2地区の定め)により大工場地区として定められた地域に所在するものに限る。(平3課評2-4外改正)
まず面積が5万㎡以上である必要があるけど、個人でこんな面積の土地を持っている人はまずいないでしょう
また路線価地域であれば、下記の「大工場地区」に地区区分がなっていなければ、この大規模工場用地に該当しないことになるわね
あと都市計画法上戸建ての住宅が建てられない地域ね。下記のように都市計画図で「工業専用地域」となっている場所も、そもそも潰れ地が発生することがないから、広大地の判定から外れることになるわね。
なので、ここの判定で迷うことはまずないでしょう
こんな大きな工場用地は、普通法人が所有していることが多いですよね。
相続税評価はあんまり考える必要はなさそうですね
2、マンション適地か、又は、既にマンション等の敷地用地として開発を了しているか
次からは、私たち町の会計事務所レベルでもよく出会う事案だし、本腰を入れていくわよ
フローチャートの二番目というと、マンション適地かどうかの判定ですわね。
そう。通達の中の「中高層の集合住宅等」、つまりマンションを建設するにあたって適地かどうかを考えていくわけね。
マンション適地であれば、道路などの潰れ地が発生しないことになるから、広大地に該当しないことになるわ
ただここの判定は争いの多いところで、難しいのよね・・・
先ほどのフローチャートが示されている国税庁の資料「資産課税課情報 広大地の判定に当たり留意すべき事項」では、以下のようにマンション適地の判定基準が記載されているわね
(3) マンション適地の判定
評価対象地について、中高層の集合住宅等の敷地、いわゆるマンション適地等として使用するのが最有効使用と認められるか否かの判断は、その土地の周辺地域の標準的使用の状況を参考とすることになるのであるが、戸建住宅とマンションが混在している地域(主に容積率200%の地域)にあっては、その土地の最有効使用を判断することが困難な場合もあると考えられる。
このような場合には、周囲の状況や専門家の意見等から判断して、明らかにマンション用地に適していると認められる土地を除き、戸建住宅用地として広大地の評価を適用することとして差し支えない。
4 マンション適地の判定
評価しようとする土地が、課税時期においてマンション等の敷地でない場合、マンション等の敷地として使用するのが最有効使用と認められるかどうかの判定については、その土地の周辺地域の標準的使用の状況を参考とすることとなる。しかし、戸建住宅とマンション等が混在する地域(主に容積率200%の地域)は、最有効使用の判定が困難な場合もあることから、このような場合には、周囲の状況や専門家の意見から判断して、明らかにマンション等の敷地に適していると認められる土地を除き、広大地に該当する。
一方、容積率が300%以上の地域内にあり、かつ、開発許可面積基準以上の土地は、戸建住宅の敷地用地として利用するよりもマンション等の敷地として利用する方が最有効使用と判定される場合が多いことから、原則として、広大地に該当しないこととなる。
地域によっては、容積率が300%以上でありながら、戸建住宅が多く存在する地域もあるが、このような地域は都市計画で定めた容積率を十分に活用しておらず、①将来的に戸建住宅を取り壊したとすれば、マンション等が建築されるものと認められる地域か、あるいは、②何らかの事情(例えば道路の幅員)により都市計画法で定めた容積率を活用することができない地域であると考えられる。したがって、②のような例外的な場合を除き、容積率により判定することが相当である。
これを読んでいると「容積率」が判断の基準になっているみたいですね・・・
容積率が300%以上で、かつ、開発許可面積基準以上の土地は、原則広大地に該当しないということですか・・・
撫子さん、この「開発許可面積基準以上の土地」というのは、具体的にどんな面積以上の土地をいうのですか?
うん、これは都市計画法に決められた、開発許可が必要な土地の面積のことよ
次の表のように決められていて、
- 三大都市圏と条例で定められた市街化区域は、500㎡以上
- それ以外の市街化区域は、1,000㎡以上
- 市街化区域以外は、3,000㎡以上
となっているわ
ただ、この面積基準も通達なのだから絶対じゃない・・・例えば三大都市圏で550㎡であっても広大地の判定の対象になるかもしれないし、450㎡であっても該当しない可能性もある・・・
この国税庁の資料の中にも、
ミニ開発分譲が多い地域に存する土地については、開発許可を要する面積基準(例えば、三大都市圏500平方メートル)に満たない場合であっても、広大地に該当する場合があることに留意する。
と例外的な判断基準に言及しているし、そのあたりは柔軟に見ていく必要があるわ
容積率が300%を超えると、原則マンション適地になってしまうのですわね・・・
500㎡の土地で、容積率300%だと、延べ床面積は最大1,500㎡まで行けることになるからね。
そんな土地に戸建てを建てるよりは、やっぱりマンションを建てるほうが、経済的合理性はあるんじゃないかしら
あと容積率には、上記の都市計画図に記載のある「指定容積率」と、もう一つ「基準容積率」があるわ。前面道路の幅に0.4や0.6といった割合をかけて計算して、これと指定容積率を比べて、低い方が適用されるわね。例えば道路の幅が6mで、割合が0.4の区域の場合、240%が基準容積率になって、これと指定容積率とを比べることになるわ。
他の法律などで、建築制限とかがない限り、普通はマンション建てますよねえ・・・
雅之くん、その考え方いい感じ。
たとえ面積や容積率が、さっきの資料の基準でマンション適地に該当するとしても、実際マンションを建てるとしたら建築基準法とかのシバリを受けたり、土地が変形していてマンション建てるのはちょっと・・・というような土地だったら、必ずしもマンション適地に該当しないことになってくるわ
その考え方を膨らませると、例えばマンションとしての需要がないような場所。駅からすごく遠いとかの理由で、分譲マンションを建てても元が取れる見込みがないとか、賃貸マンションでも借り手がいなさそうだとか、そういった場所でも、マンション適地に該当しない可能性があるわね
ただこのあたりの判定をして行こうと思ったら、あとで文句つけられてもしっかり反証できるよう、個別にしっかり資料調べなどが必要ね
近隣の開発登録簿を取り寄せるとか、どれだけしっかり根拠を揃えられるかが大事になってくると思うわ
容積率300%以上の場合は分かりましたわ。ところでこの「容積率200%」についての言い回しは何ですの!
「戸建住宅とマンションが混在している地域(主に容積率200%の地域)にあっては、その土地の最有効使用を判断することが困難な場合もあると考えられる。このような場合には、周囲の状況や専門家の意見等から判断して、明らかにマンション用地に適していると認められる土地を除き、戸建住宅用地として広大地の評価を適用することとして差し支えない。」
こんな持って回った言い方されましたら、どう判断していいか困りますことよ!もっとはっきりした判断基準を示して欲しいですわね!
みつ子さん、ちょっと興奮しすぎ・・・
でも確かにここは、ケースバイケースの判断になってくるので、悩んでしまうところよね。
国税不服審判所の裁決事例で、マンション適地とされてしまったものの判断基準が示されたものがあるから、見てみようか・・・
各影響要因に基づく加減 | 公表裁決事例等の紹介 | 国税不服審判所
請求人は、本件土地が財産評価基本通達24-4《広大地の評価》(本件通達)の適用がないとされる、いわゆるマンション適地等に当たるか否かについて、①本件土地の周辺地域の状況は戸建住宅とマンションが混在している地域であること、②専門家が本件土地は、マンションの敷地よりも戸建住宅の敷地に適しているとの意見を述べていることなどからすると、本件土地はマンション適地等に該当しない旨主張する。
しかしながら、マンション適地等であると認められる場合とは、本件通達に定めるから判断して、評価対象地をマンション等の敷地とすることが経済的に最も合理的であると認められる場合を指すと解するのが相当であるところ、
①本件土地の存する「その地域」は、マンション等の建築に係る規制が厳しくない地域であること
②本件土地は公共施設及び商業施設との接近性に優れていること
③「その地域」には複数のマンションが存すること
④「その地域」において、本件相続開始前10年間における500㎡以上の土地に係る建物の建築事例は2件あり、いずれもマンションの建築事例であること
⑤本件相続開始日後、現に本件土地上にマンションが建築されていること
からすると、本件土地は明らかにマンション適地等に該当するものと認められる。
この裁決事例では、判断基準として、「土地の所在地のマンション等の建築の状況」、
「用途地域・建ぺい率・容積率」、「地方公共団体の開発規制」、「交通、教育、医療等の公的施設や商業地への接近性等」などが判断基準として挙げられている
そして「マンション等の建築の規制が厳しくない地域」、「公共施設及び商業施設とが近い」、「同じ地域に複数のマンションがある」、「マンションの建築事例がある」、
「本件相続開始日後、現に本件土地上にマンションが建築されている」から、広大地に該当しないという結論になっているわね
最後の「現に本件土地上にマンションが建築されている」というのは、ちょっととほほといった感じもするけど・・・
結局それぞれの土地について、固有の周辺状況などを調べておかないと、マンション適地かどうかという判定はできないわけですわね・・・
現地調査、不動産屋さんの聞き込み、役所への問い合わせとか、いろいろ大変そうですわねえ・・・
文句つけられたときにどれだけ反論できるか、根拠資料の準備と理論武装が必要よね。大変だけど、やりがいがあるとも言えるのではないかしら
次はフローチャートの3番目。「その地域における標準的な宅地の面積に比して著しく面積が広大か」を見ていくわね
→Episode20 広大地の判定ってどうするの?③に続く