→Episode12 中小企業の決算書を10分で見るポイント(2)からの続き・・・
あと問題となるのは、幽霊資産ですわ!
幽霊資産・・・ですか?
そう、実態のない資産、価値のない資産・・・私はこういったゴミ資産のことを「幽霊資産」といっておりますわ!幽霊資産がうようよしているような会社は、取引先としてお付き合いするのは考え物ですわよ!
具体的にどういったものを「幽霊資産」というのですか?
資産がどういうものかということを考えれば、すぐに分かることですわよ。雅之くん、資産の定義ってどういうものをいうのかしら?
「将来の収益力要因」、でしたっけ・・・?
その通りですわ。将来お金に変わったり、将来の収益を増やしたり、費用を減らす効果があるものが資産というべきもの。逆にこれらの効果が全くないものは、資産としての価値がないので、幽霊資産ということになってきますわ。
それならば、粉飾決算の過程でできてしまった架空の売掛金や仮払金、償却不足の固定資産も、幽霊資産になりますね。
そう!そういった粉飾決算で故意に作り出された架空資産は、幽霊資産の最たるものですわ!また故意とまでは言わなくとも、貸倒処理をしていない破産債権なども、幽霊資産というべきですわね。
故意に作った幽霊資産があるということは、過去に粉飾をしていたということだし、貸倒処理できない売掛金があるということは、償却できるほどの体力が会社にないってことですよね・・・。
あと、特に要注意なのが、長期貸付金や短期貸付金といった貸付金勘定。これらの残高がありましたら、少額の従業員貸付金を除いて、まず資産価値はないものと考えるべき。
相手先が子会社の貸付金は、ほとんどの場合子会社の経営が左前になっているために貸し付けたものですから、まず返ってくることはない。また役員貸付金がありましたら、その会社は経営者が会社を私物化して公私混同していること間違いなしですわ!
役員貸付金は、会社のお金を役員が自分の懐に横流ししてるってことですものね!撫子さんも言ってました!
なで子さんのことはどうでもいいですけど、役員貸付金のたちの悪いところは、全く利用価値のないクズ資産であるし、解消するのも非常に厄介なところ。
んんっ?どういうことですか?
回収不能になった売掛金は貸倒処理により費用にできるし、左前になった子会社の貸付金も、債務免除したり子会社を清算することにより損失処理できる余地は残っていますわ。また粉飾で作った架空資産も、仮装経理ということで時間はかかりますけど、費用にできないこともない。
ふむふむ・・・
ですが役員貸付金は、役員が破産でもしないかぎり、損失など費用処理することはできませんわね。地道に返金してもらうしか方策はありませんが、実際難しい場合も多い。費用として将来の税金を減らす効果もありませんし、回収の可能性も限りなく低い。
だから役員貸付金は、一度作ってしまうと本当にたちが悪いのですわ。決算書のがんと言っても過言ではなくってよ。
役員貸付金は、一度作ったら解消するのが大変と撫子さんもいってました。ぼくも、今後の仕事では気を付けるようにしないと・・・。
あと、幽霊資産は実態のない資産であるということと同時に、会社や経営者の性格を映し出すものでもありますわ!
といいますと・・・?
幽霊資産が存在しているということは、過去その会社が粉飾したり、役員が会社のお金を自分のポケットに入れたという証拠。粉飾で銀行をだましてまでもお金を借りたい・・・。役員報酬だけでは足りないから、会社のお金を個人に回す・・・。そんな利己的な行為の残りかすが、幽霊資産というわけですわ。
長くお付き合いするなら、あまり利己的な相手は人でも会社でも、敬遠したいですよね。
あら、雅之くんもたまにはいいことを言うじゃないこと!一事が万事。決算書に幽霊資産があるような会社は、取引においても利己主義に走る可能性が高い。だから、お付き合いするのも考え物というわけですわ。
まあ傾向として貸借対照表をパッと見て、よくわからない資産科目がいっぱいあって、負債科目が少ない場合は、粉飾の可能性が高いといえるでしょうね。逆に負債科目がみっちりで、資産科目がスカスカな場合は、逆粉飾やってる可能性が推測されますわ・・・。
でもみつ子さんは、売上とか利益とかにはあまり注目しないんですね。決算書分析と言えば、売上高利益率とか総資本利益率とか、会社の儲けの度合いを見るものと思っていました・・・
会計士がきちんと監査する大企業と違って、中小企業の場合、決算書の数字はあまりチェックが入ってないから、売上や利益の数字は必ずしも信用できるものではありませんわね。最初に説明したとおり、売上も利益も、架空資産を計上することによって操作は可能ですわ。
中小企業の場合、粉飾されていてもノーチェックだから、売上や利益の数字を見てもあんまり意味がないということですか・・・。
そういうことですわね。それに、取引先の決算書をチェックする目的は、販売代金をきちんと払ってもらえるかどうかが第一義。得意先の業績がいいことに越したことはありませんけど、それほど重視すべきともいえませんわ。
ただ中小企業の決算書は粉飾が多いといっても、全く使えないわけではない。今まで見てきたように、貸借対照表の不自然な歪みから粉飾の傾向を確認したり、おおよその資金繰りの概要を確認することは可能ですわね。
今野デザインさんの新規の仕入先も、今野デザインさんが売り先として信用できるか?きちんとお金を払う能力はあるか?それを確認するための情報の一つとして、決算書の提出を求めたんですね。
その通りですわ。そして、中小企業の決算書のチェックで大事なことは、資金繰りが回っていることの確認と、粉飾や公私混同の形跡がないきれいな貸借対照表であること。笹部さんにはそんなことを分かりやすく説明すれば、雅之くんの株も上がること請け合いですわ!
みつ子女史、何だか妙な勘違いをしているようだけど・・・。ま、いいか・・・。