撫子さんと学ぶ会計事務所の仕事

会計事務所的よもやま話あれこれ

Episode12 中小企業の決算書を10分で見るポイント(2)

masayukiquestion

簡易キャッシュ・フローというと、キャッシュ・フロー計算書を作って確認するんですか?

 

mitukosigh

二期分のB/Sがあればできないこともないですけど、今回は10分程度でみるのですから、そんなことをしている暇なんてありませんことよ・・・。ざくっとキャッシュ・フローを推計するためには、損益計算書の「税引後利益」に「減価償却費などの非資金費用」を足した金額を、フリー・キャッシュフローとみなしますわ

masayuki8

そんな簡単な計算で、実際の資金繰りとズレてこないのかなあ?

 

 

mitsukoikari

あら、雅之くんのくせに、生意気言いますわね!もちろん設備投資などB/Sだけの取引があれば、この方法では把握できませんわ!しかしざくっと本業での資金獲得力を見るのであれば、十分役立ちますわよ!

 

mitsukotsuujou収益・費用ともにすべて現金取引であれば、P/Lの利益=資金増加額になる理屈。ですから売掛・買掛などがあったとしても、数か月で解消するのですから、その分のズレがあるとしても、いずれは一致することになりますわ。

 

masayuki5

まあ、確かに理屈としてそうですね・・・。だからP/Lの利益に、資金流出を伴わない減価償却費を足して、概算のキャッシュ・フローとみなす訳か・・・。

 

mitsukotsuujou

減価償却費の他、通常のキャッシュ・フローを計るためには、固定資産除却損といった特別損益も、金額が大きい場合には除外する必要がありますわね。あとは中小企業ではほとんどありませんけど、配当や役員賞与がある場合には、これも足し戻す必要がありますわね。

masayuki5今野デザインさんの場合、配当や役員賞与もないですし、特別損益もないので、普通に税引後利益に償却費相当額を足せばいいんですよね・・・

 

簡易CF

masayukishorui前々期は「当期純利益143千円+償却費4.250千円=4,393千円」、前期は「当期純利益1,085千円+償却費3,755千円=4,840千円」という感じですね。

 

mitsukotsuujou

今野デザインさん、利益はほどほどですけど、償却費がかなり大きいので、資金繰りは余裕といったところかしら。たとえ利益が赤字であっても、償却費を足したところでプラスになれば、とりあえず本業でキャッシュはプラスになっているということになりますわ。逆にここの段階でマイナスでしたら、事業を継続するだけ、キャッシュがマイナスになっていくということになりますわね。

masayuki6

なるほど~。P/Lの利益が同じであっても、償却費の金額によって、資金繰りに余裕があるかどうかは変わってくるんですよね・・・。利益だけ見てると分からない部分ですね!

 

mitsukotakawarai

そういうことですわ!ちなみに損益トントンぐらいの会社で、償却費の金額が償却資産に比べて少な目かしらというときは、償却費を減らして粉飾している可能性がありますわ。そういう場合も利益に償却費を足して資金繰りを見てみると、何だかおかしいと気づくこともありましてよ。

masayuki6

性悪説でひねくれた視点で決算書を見ていると、いろいろ疑うことがありそうですね。さすがはみつ子さん!会計士の資格は伊達じゃない!

 

mitsukotsun

褒められているのか、けなされているのか、よく分かりませんわね・・・。まあいいですわ・・・。簡易キャッシュ・フローの金額が分かれば、借入金の返済能力と借入金の額が適正かどうかが分かってきますわよ。

 

masayuki5

この簡易キャッシュ・フローをフリーキャッシュ・フローとみなすのだから・・・。簡易キャッシュ・フローが、借入金の返済原資となるわけですね?

 

mitsukobishou

あら、察しがいいわね、雅之くん。じゃあ、具体的にどういうポイントをチェックしていけばいいかしら?

 

masayuki5

返済するためには「簡易キャッシュ・フロー>一年の返済額」となっている必要がありますよね・・・。でもそれをどうやって確認すればいいのかな?

 

mitsukotsuujou

年間の返済額は決算書からだけでは分からないですわね。ですけど中小企業の借入金の借入期間は、5年から7年ぐらいが一般的。ですので、金融機関の借入金の合計を、簡易キャッシュフローで割ってみて、その数字と一般的な借入期間と比較してみて、返済力を推計することになりますわ。

masayukishorui

次の図の「債務償還年数」というものですね。金融機関借入金の残高を、概算キャッシュ・フローの数字で割って計算するのですね・・・。

決算書債務償還

mitsukotsuujouこの債務償還年数が、一般的な借入期間内に収まっていれば、返済能力は問題ないとみていいでしょうね。逆に10年以上とかになっていれば、台所事情は厳しいと推測されますわ・・・

 

masayuki6

今野デザインさんは、2.9年とか3.0年ですので、この辺は全然問題ないって感じですね。

 

mitukosigh

まあ逆に、必要以上にお金を借りているっていうことも考えられますわね・・・。必要以上にお金を借りると、手元のお金は潤沢になって安心ですが、無駄な利息を払っているとも言えますわ。それを見るのが「固定長期適合率」と「運転資金」の数字・・・。

固定長期適合率運転資金

masayuki8

固定長期適合率って言葉、時々聞きますけど、何を意味するのですか?

 

 

mitsukotsuujou

自己資本固定負債で、固定資産を調達できているかを見る指標のことですわ。自己資本固定負債は返す必要がない、またはすぐに返す必要がない、安定した資金の調達元。ですので、固定資産をこの二つの合計額の範囲内で賄っていることは、安定した事業を行うためには大事ですわね。

masayuki6

固定長期適合率が100%以下なら調達できているし、100%超なら調達できていないということになるのですね!

 

mitsukotsuujou

その通りですわ。借入金の必要額の視点からは、100%を超えていれば、長期借入金の額は十分でないと言えますわね。

 

masayukishorui

今野デザインさんの場合、前々期は52.4%、前期は34.9%ですから、余裕で賄えているということになりますね・・・

 

mitsukokaishin

雅之くん、理解が早い・・・やはり私の教え方がよろしいのかしら・・・

 

 

masayuki7

みつ子さん、また自分に酔って・・・。で、運転資金の方はどう見るのですか?

 

 

mitsukoikari

酔ってなどいませんわ!で、運転資金については、以前ここでも確認しましたわね。売上債権と在庫の合計から、仕入債務を差し引いて計算するのですけれど、これを自前で賄えない場合にも、借入金は必要になってきますわ。

 

mitsukotsuujou

運転資金は短期でグルグル回っているものですから、必ずしも長期借入金ではなく、短期借入金で調達しても問題ないですけど、理想は安定した長期借入金で調達できることですわね。

 

masayuki6

今野デザインさんは運転資金、前々期が3,050千円、前期が3,680千円になってますね。さっきの固定長期適合率自己資本固定負債の合計から固定資産を引いた残りで、この運転資金が賄えていればいいってことですね。

 

mitsukotsuujou自分で考えて理解してくれる人は、教えがいがありますわね・・・。そういうことですわ。今野デザインさんの場合は、余裕でこれも賄えているので、それを超える借入金はまあ余りになるってことですわ。

 

masayuki5

顧問先の借入金の額が適正かどうかなんて、普段の業務ではあまり考えないですけど、決算書からそういうことも読み取ったりもするのですね・・・。そういえば指標の一番下で、概算金融機関金利を確認するのはなぜですか?

 

概算金融機関金利

mitsukotsuujou

概算金融機関金利は、前期の支払利息を、前々期と前期の借入金の平均残高で割った率で、会社がどれぐらいの利率で資金を調達できているかが推測できますわ。

 

mitsukotakawarai

ここが一般的な率より高ければ、金融機関に足元見られてるってことですから、資金繰りが厳しめと推測できますし、低ければ逆に金融機関から評価されている会社と見ることができますわ。あ、そうそう、ここが10%とか20%とか異様な率になっている場合には、街の金融屋さんとかで借りている可能性もありますわ!

masayuki7

街の金融屋さんって・・・、ナ○ワ金融道とか、ああいうものですよね・・・。でも利息と借入金の残高から、そういう可能性も分かるんだ。今野デザインさんは3.16%ですから、まあ普通ですから安心かな・・・。みつ子女史、取引先は、あとどんなところを見るんでしょう?

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