撫子さんと学ぶ会計事務所の仕事

会計事務所的よもやま話あれこれ

Episode7 同族会社に土地を貸した場合の課税関係あれこれ(1)

mitukosigh はあ~、やれやれ・・・。考えれば考えるほど訳が分かりませんわ・・・。

 

 

masayuki5 あれ、みつ子さん。ため息なんかついちゃって、めずらしい?もしかして、まさかまさかの恋わずらい?

 

mitukosigh なんだか今日は雅之くんのおバカなツッコミにも、言い返す元気もありませんわね・・・。いやね、私の担当の芳賀商事さん。社長が持っている土地の上に、会社名義の建物を建てることになったので、税務上注意すべきことがあるか聞かれたのですわ。

mitsukogimon

それで事務所に戻ってきてから色々確認してみたのだけど、「借地権」とか「相当の地代」とか「通常の地代」とか「無償返還」とか「使用貸借」とか・・・。もう調べれば調べるほど分からなくなって、頭の中がウニになってきているところですの・・・。

masayuki5 法人税法相続税法の勉強をしていた頃、ぼくも借地権には悩まされましたよ。法人税では権利金を収受しないと認定課税されたり、相続税の土地評価も色々変わったりして・・・。未だによく理解できていないかも。

 

mitsukotsuujou

税理士試験で税法を勉強されている方は、基礎知識があっていいですわね・・・。私なんて、この事務所に来てから一から勉強ですわよ。

 

masayuki5 それでどんなことでお悩みなんですか?確かに土地に建物を建てさせると、借地権が発生してしまいますね。法人税的には、借りた方には借地権が発生するから、権利金を払うか、相当の地代を払う必要がありますね。払ってなかったり少な目の地代だったら、権利金相当額が受贈益として認定されるのだったかな・・・。

masayuki8

逆に貸す側は、認定された権利金相当額が「寄付金」とか「役員賞与」とかになってしまうんですよね・・・。両方とも原則損金不算入だし賞与は源泉所得税も絡んでくるから、認定受けてしまうと大ダメージになるはず・・・。

 

masayuki5 だけど「土地の無償返還に関する届出」を出していれば、権利金の認定はされず、地代の認定だけがされるのですよね。相当の地代の授受があれば問題ないし、それ以下の地代しか払ってなくても、借りた側は受贈益と地代の両建てだから所得に影響しないし、貸した側も相当の地代と実際の地代との差額が寄付金や役員給与になってくるので、ダメージも少な目になる感じですね。

mitsukotsuujou

そう、だから今回もその「土地の無償返還に関する届出」を出そうと考えているのですわ。ですが、この規定って法人税の規定ですわね。今回の場合、貸主は個人だから、この規定ってどう関わってくるのかしら。雅之くん、わかって?

 

masayuki7 個人だから、所得税とか贈与税が関わってくるのかな・・・。でも今回は貸主だから、贈与税は関係なさそう。所得税でもこの「土地の無償返還に関する届出」は関連するのですか?

 

mitsukoikari

ちょっと、あなた!人の話を聞いていて!「土地の無償返還に関する届出」は法人税法に規定されているから、貸主が個人の場合に所得税的にどう絡んでくるのかを、私が質問したのでしてよ!雅之くんは税理士試験受かっているのだから、当然分かっていますわよね!

masayukiquestion税理士試験、ぼくは所得税法選択してませんから・・・。所得税の知識はみつ子さんと大差ないですよ・・・。

 

mitsukotakawarai

そうそう、忘れておりましたわ!税理士試験は全ての税法の試験に受かる必要がなかったのでしたわね。雅之くんは確か、法人税法相続税法消費税法しか勉強してなかったのでしたわね。おほほほ、無理な質問をしてごめんあそばせ!

masayuki7

やれやれ・・・。申し訳ないなんて全然思っていないこと、顔にでてますよ・・・。あ、撫子さんが外出から戻ってきたみたいですよ。みつ子女史、さっきの質問、撫子さんにしてみたらどうですか?ぼくも、課税関係がどうなるのか知りたいし・・・。撫子さん、おかえりなさい。今日は暑かったでしょう。

nadesikoice あ~、夏の外出の後、クーラーの効いた部屋で食べるアイスは最高ね~。あ、雅之くん。二人の分のアイスも、買ってきて冷蔵庫に入れているから、よかったらどうぞ。

 

masayukiice

それじゃぼくも遠慮なくいただきま~す。いや~、みつ子女史にいじめられた後の甘くて冷たいアイスは最高です~。

 

mitsukoice

雅之くん、なに人聞きの悪いことをおっしゃっているのかしら!でもこのアイスはおいしいですわね・・・もぐもぐ・・・お礼申し上げますわ・・・

 

nadeshikokushou

みつ子さん、怒るか食べるかどちらかにしたらいいのに・・・。で、何か問題でもあったのですか?

 

masayuki5 みつ子さんの担当の芳賀商事さん、社長が法人に、法人名義の建物の敷地を貸すことになったのだけど、その課税関係が分からなくなってしまって・・・。法人税所得税って、借地権の扱いが変わりますよね?

 

mitsukogimon 「土地の無償返還に関する届出」の規定は、法人税には規定がありますけど、所得税にはないですわね。この違いがある理由は何故かしら?

 

nadeshiko5 その理由は、法人税所得税で所得の考え方に違いがあるからよ。ねえ、雅之くん。法人税の所得計算上、益金の額に算入されるものの原則はどういうものだった?

 

masayuki5

えーっと、法人税法の基礎の基礎、22条ですよね・・・「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲り受けその他の取引で、資本等取引以外のものに係るその事業年度の収益の額とする」ですね。

mitsukotsuujou 税理士試験を受けた方が、条文を一言一句丸暗記しているのは、いつもながら脅威を感じますわ・・・

 

nadeshiko1

みつ子さん、雅之くん、そこの「無償による資産の譲渡又は役務の提供」、「無償による資産の譲り受け」というところを覚えておいてね。次に所得税の所得の計算上、収入の金額に算入されるものの原則はどうだったかしら。

 

masayukishorui条文は丸暗記してませんけど、確か36条でしたね。えーっと「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額(金銭以外の物又は権利その他経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額)とする。」となってます。

nadeshiko6

そう、その通り。所得税の場合は「その年において収入すべき金額」、つまり実際にお金が入ってくることになるもののみが所得になるわけね。無償による資産の譲渡や役務提供などは所得の対象とは、原則ならないの。

 

mitsukotsuujou

でもなぜそのような違いがあるのかしら?

 

 

nadeshiko5

法人税法が対象としているのは、株式会社などの営利法人が対象よね。営利法人は、物をただで渡したりサービスをただで提供したりすることは、株主への背信行為になってしまうので理屈としてありえない。だからそんな経済的合理性のない行為は行わないという前提に立っているわけね。

nadeshiko5

だけど同族会社の場合、経営者や特定の人の利益を図ったり課税の回避のために、無償で何かをするといった経済的合理性のない行為を、敢えて行う可能性がある。そんな行為を抑制し、もし行った場合には課税しますよというのが、ここの趣旨なわけ。

masayuki6

同族会社の行為計算の否認の規定も、その考え方の延長にあるんですね。

 

 

nadeshiko6

その通りよ、雅之くん!一方で所得税は、自然人の行為を対象としている。自然人というのは感情もあれば人情もある・・・。相手の状況次第ではただで物を上げたり貸したり、何かしてあげたりすることも当然あるから、原則として無償取引について課税するということは規定されていないのよ。

mitsukotsuujou

なるほど、法人税所得税の考え方の違いはよく分かりましたわ。で、それが法人税だけに「土地の無償返還に関する届出」の規定があることと、どうつながってくるのかしら?

 

nadeshiko1

その前に今まで見たことを踏まえながら、借地権が発生する場合の課税関係を確認しておきましょう。雅之くん、法人税での借地権の課税関係について説明してくれる?

 

「Episode8 同族会社に土地を貸した場合の課税関係あれこれ(2)に続く」