撫子さんと学ぶ会計事務所の仕事

会計事務所的よもやま話あれこれ

Episode3 強制調査と任意調査

mitsukoiratsuki

うがーっ!

 

 

masayukiamazing

うわっ、みつ子女史、朝からテンパってますね。何かあったのですか?

 

 

nadeshiko5

みつ子女史の担当している、今津文具店さん。税務調査の通知があったんですって。それではりきって、ずっとあんな調子みたいよ。税務調査は、申告納税制度と表裏一体のワンセットの制度だから、いずれ雅之くんの担当のところにも通知がくることになるわね。

masayuki5撫子さん、通常の税務調査って「任意調査」と言われますよね。「任意」なのだから、調査を受ける受けないは、納税者の任意で決めることができるのですか?

 

nadeshiko5 うん、ここでいう任意調査というのは、いわゆる「強制調査」の対義語なの。強制調査というのは、国税犯則取締法に基づいて行われる、「査察」のことをいうわ。雅之くん、査察といわれたらどんなことを想像する?

 

masayuki8国税犯則取締法」とか、恐ろしげな響きですね・・・。昔の「マルサの女」という映画みたいに、脱税をした人の家に乗り込んで調査をするイメージがあります。

 

nadeshiko6そのイメージで合っているわ。査察とは、脱税の疑いがある人などに質問したり、帳簿などを検査したり、提出物を領置することをいうんだけど、これらの過程で非常に強力な権限が与えられているの。

 

masayukiquestion 「強力な・・・」というと、どんな感じですか?

 

 

nadeshiko1査察の場合、裁判所の許可いわゆる令状があれば、必要と思われる物や人について、臨検、捜索、差押えができるの。 臨検とは調査に必要な場所に鍵をぶち壊してでも立ち入ること、捜索とは調査に必要なものを強制的に探すこと、差押さえとはその必要なものを持ち主の権利に関わらず押収することをいうわ。

masayukiquestionそれのどこが強力なんですか?

 

 

nadeshiko7ガクッ・・・。あのね、雅之くん。今の日本では国民の権利は非常に大切にされているの。たとえば物を所有することについては、憲法29条で財産権として保障されている・・・。また自分の家に人が勝手に入ってこないということについては、憲法35条で住居の不可侵ということで保障されているの。

nadeshiko5だからこの憲法レベルで保障された国民の権利を侵すことができるのは、すごく強力な権限なのね。民主主義国家は、国民が自ら選んだ代表者が決めた法律に従って、自らの財産の一部を税金として国家に拠出する。脱税はこのルールを否定する悪質な犯罪だから、正すための査察に強い力が与えられているというわけ。

masayuki6なるほど・・・。他の犯罪に比べて、脱税って被害者がいないし、お金だけの話だからと軽く考えがちですけど、立派な犯罪なんですね。だから他の犯罪の捜査と同様に、令状をもって住居などに立ち入ったり証拠物を押収できたりするんですね。

nadeshiko6と、これが強制調査である査察のお話。一方普通の税務調査は、所得税法なら第234条、法人税法なら第153条と、各税法で定められた「質問検査権」に基づき行われるの。国税犯則取締法に基づいて行われる査察とは違うポイントね。

masayukiquestion質問検査権とは、いったいどんな権利なのですか?

 

 

nadeshiko5質問検査権は文字通り、「納税義務者などに質問する権利」と「帳簿書類などを検査する権利」のこと。法律上は、これしか規定されていないわ。だから質問と検査はできるけど、査察みたいに鍵を壊してまで住居などに立ち入ったり、証拠物品を有無を言わさず押収することはできない・・・。

nadeshiko1だから納税者の同意がなければ、勝手にその住居や事務所に立ち入ることができないし、同意がなければ納税者の持ち物を勝手にもっていくことはできないの。納税者が嫌がっているのに、調査官が勝手に家や事務所に入り込んだり物を持っていったら、その調査官は犯罪者になってしまうわ。

nadeshiko6 納税者の同意がなければ、質問検査権に基づく税務調査は行えない。だ・か・ら、普通の税務調査は「任意調査」と言われるわけね。

 

masayuki6えっ、それじゃあ、納税者が嫌って言えば、税務調査はできないんですか?

 

 

nadeshiko6ふふふ・・・そうは問屋が卸さない・・・。嫌で済んだら、税務調査を受ける人はいなくなっちゃうわよ。そんなことにならないよう、質問検査権に応じないと罰則が定められているわ。

 

nadeshiko5調査官の質問に対して回答しなかったりウソを答えたり、検査を拒否したり妨害したり忌避したりした場合や、偽りの記載又は記録をした帳簿書類を提示した場合には、罰則が定められているの。罰としては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金という感じね。

masayuki7なんだ・・・罰があるんだったら、任意と言ってもやっぱり受けないとダメなんですね。

 

nadeshiko6 ふふふ・・・いったじゃない・・・。申告納税制度と税務調査は、表裏一体のワンセットだって。税務調査がなければ、納税者が自分で計算し申告した税額が、正しいか正しくないか検証する術がない。それを確認するための手段が税務調査なの。

nadeshiko1任意調査であっても罰則が後ろに控えているので、結局受けざるを得ない。だからこの質問検査権による税務調査は、「間接強制」と言われることもあるわ。また嫌であっても、納税者が我慢して質問に回答し検査を受けないとダメなことから、この我慢が強いられることを「受忍義務」というの。

nadeshiko6 だけどもちろん任意調査である以上、何をされても文句が言えないというわけではないわ。査察と違って有無を言わさず入り込まれたり、自分の部屋や机、カバンの中を引っ掻き回されたり、物を勝手に持っていかれたりということは許されていない。そういうことをする場合には、必ず納税者の同意が必要となる。

nadeshiko7だけど、普通の納税者の多くは、こういった税務調査に対する知識をしっかり持っていないわ。そのため任意調査と強制調査の区別もつかず、調査官の言いなりになってしまって、なんでも同意を与えてしまったりしてしまう・・・。

 

nadeshiko1

だから私たち税理士は納税者の代理人として間に入って、納税者が持っている権利を最大限行使できるよう、サポートすることが大事になるのよ。さあ、みつ子女史、税理士として今津文具店さんの権利を守ることはできるかな・・・。今までの勉強の成果の見せ所よ!

mitsukoiratsuki

うがーっ!ちょっとお二方、そちらで私のことを他人事のようにおっしゃってるのでしたら、アドバイスなどしてくれてもよくなくて!私、税務調査の立会い、初めてなのでしてよ。上手く乗り切ることができたら、お二方には事務所のとなりの坂本飯店で一番高い、特上チャーシューメガ盛りラーメンをご馳走してもよろしくってよ!

masayuki6nadeshiko6

はーい♪