撫子さんと学ぶ会計事務所の仕事

会計事務所的よもやま話あれこれ

Episode1 物品切手をめぐる税務あれこれ

masayuki5

撫子さん。ぼくの担当する海沼印刷さんですけど、今期かなり利益が出そうなので、節税対策をいろいろ聞かれているんですけど、相談してもいいですか?

 

nadeshiko6

そういえば海沼印刷さん、最近経理の担当が変わったって話だったわね。それで、相談ってどんなこと?

 

masayuki5

その新しい経理担当者から「節税対策として、切手とか商品券とかをまとめ買いして今期の経費にすることを考えているんですけど、問題ありますか?」って質問されているんですけど、実際どうなんでしょう?問題ないのですよね・・・?

 

nadeshiko7

とほほ・・・。問題大ありよ、雅之くん!

 

 

masayukiquestion

え~、問題大ありですか?だって切手とか収入印紙とか、購入したときに経費にしているじゃないですか。だったらある程度多めにまとめ買いしても、買った時点での経費になるんじゃないんですか・・・?

 

nadeshiko5切手や収入印紙を買ったときに経費にするのは、購入してからすぐ使うという前提があるからよ。原則は購入したときには「貯蔵品」など資産計上して、使用した際に経費に振替えなければいけない・・・。ただそんな処理をすると事務がとっても煩雑になるから、便宜上購入時に経費処理しているだけ。

masayuki8

うーん、でも毎年同じように買って使ってるものだったら、買ったときに経費処理しても、課税上弊害がなかったらOKみたいな基本通達がありませんでしたっけ?

 

nadeshiko8あ~もしかして、法人税法基本通達の2-2-15のことかしら?これって「事務用消耗品、作業用消耗品、包装材料、広告宣伝用印刷物、見本品その他これらに準ずる棚卸資産」だけだから、切手とか商品券とか物品切手は対象にならないわよ。

 

masayukiamazingうげっ!本当だ・・・。この通達って、切手とか印紙も含んでOKだと思い込んでた・・・。

 

nadeshiko6

切手とか収入印紙って、普段購入時に経費処理してしまうことが多いから・・・。つい誤解してしまうのよね。

 

masayuki5ということは、消費税の課税仕入のタイミングも、実は使った時で、購入時の課税仕入とするのは間違いなのですか?

 

nadeshiko6

するどいわね!雅之くん!消費税も使った時の課税仕入れにするのが原則。ただ、消費税の基本通達11-3-7 に切手などの物品切手は、「自ら引換給付を受けるものにつき、継続して当該郵便切手類又は物品切手等の対価を支払った日の属する課税期間の課税仕入れとしている場合には、これを認める。」というのがあるから、買ったときの課税仕入れにしても問題ないのよ。

masayuki7へえ~法人税とは扱いが違うのですよね。課税仕入れにしてもOKだけど、損金処理はNG・・・。ぼくが勘違いする原因ですよね。なんでこんなことになってるんでしょう?

 

nadeshiko1

使用時に課税仕入れというようにしたら、切手一枚一枚の使用状況を確認しなければならないから、事務が恐ろしく煩雑になってしまう・・・。それを避けるために消費税では購入時に処理してしまうことも認めているのでしょうね。

 

nadeshiko7だけど法人税でも、購入時に損金処理OKということにしてしまうと、雅之くんが考えたように「まとめ買いして、節税に使ってしまおう」という人がきっとでてくるから・・・。だから認められていないのでしょうね・・・。

 

masayuki5

すいません、短絡的な考えでした・・・。ということは切手や収入印紙とか商品券は、期末に1枚でも残ってたら、貯蔵品など資産に振り替えて経費から外す必要があるということですね。

 

nadeshiko5

原則はそういうことになるわね。ただ切手とか収入印紙とかは経常的に使うものだから、すぐに使ってしまう程度の枚数だと、そんなに目くじらを立てられることは少ないかな。だけどビール券とかの商品券は毎日使うものではないから、少なくても期末に枚数チェックしてもらって貯蔵品に振り替えておく方が無難よ。

masayuki5

わかりました。期中に商品券の購入があれば、期末に在庫がないか、先方に確認する習慣をつけておきます。

 

nadeshiko1あと切手とか物品切手についてのワンポイントアドバイス。切手とか商品券とか物品切手とか、あと鉄道の切符とかは裏金作りに使われたりするの。

 

masayukiquestion

んん?どういうことですか?

 

 

nadeshiko5

物品切手とか切符とかは、買っても使わなければ、価値はそれほど目減りしない。だからチケットショップとかで、買値の9割程度とかで引き取ってもらえるでしょ。例えば会社が100,000円で切手を購入し通信費などで処理したのちに、金券ショップで90,000円で売却して、その売却処理について何も経理処理しなかったらどうなる?

masayukiamazing

90,000円が帳簿に出てこないことになるから・・・、ああっ、これが裏金になるんですね!

 

nadeshiko5そう、その通り。こういうお金は、以後使っても帳簿に記載する必要がないから、賄賂とかの相手や使途を内緒にしておきたい工作資金に使うことができるようになるわ。だけどこんなことをしたら、切手や収入印紙、鉄道切符は自分で使ってないことになるわね。

nadeshiko7

だから最初に通信費や租税公課、旅費交通費として処理したものは、当然経費として認められないことになるわ。それに仮装・隠蔽に該当するから、重加算税の対象にもなったりする・・・。だからこれらの費目が通常に比べて異常に増加していたりしたら、裏金の可能性を考えながら、顧問先に質問してみてね。

masayuki5

わかりました。ところで撫子さん、チケットショップで収入印紙とか証紙を買った場合、消費税は課税仕入れになるんでしたっけ?

 

nadeshiko6

そうよ。消費税法の別表第一で、郵便局や指定された販売所が販売する切手や収入印紙、証紙は、非課税取引とされているわね。逆に言えばこれら以外の者が販売する切手、印紙、証紙は課税取引になるの。そして課税取引となるものを購入した場合、購入側では課税仕入れとすることができるわ。

masayuki6じゃあ、収入印紙や証紙はチケットショップで買った方が値段も安いし、消費税も控除できるので、二重においしいということですよね。

 

nadeshiko1

そういうことになるわね。収入印紙や証紙の使用量が多い顧問先。たとえば領収書に張り付ける印紙の枚数が多いところとか、建築確認などで証紙を多く使う顧問先とかは、おすすめしてあげた方がいいでしょうね。ところでこのチケットショップを使った課税仕入れについても、勘違いされやすいポイントがひとつあるの。

masayuki5

どんなポイントですか?

 

 

nadeshiko5

チケットショップが販売した場合に課税取引になるのは、切手、収入印紙、証紙だけ。それ以外の商品券などの物品切手は、誰が販売しても非課税取引になるの。だからビール券や百貨店共通商品券とかは、例えチケットショップで買ったとしても課税仕入れにできないから、帳簿のチェックの際には注意してね。

masayuki5

わかりました。

 

 

nadeshiko5

あと商品券で気を付けるのは、購入して贈答する場合は自社で使わないから非課税になるのだけど、もし自社で使って物品の引換を受けた場合には課税仕入れとなるわ。例えば百貨店の商品券で自社の消耗品を購入したり、図書カードで書籍を買ったり、ビール券で打ち上げのビールを買ったりした場合には、当然お金で買ったのと同じだから、課税仕入れにしても問題ない。

masayuki6チケットショップで買えば若干安いですから、しまり屋の経営者だと、新聞図書は全部チケットショップの図書カードで購入しろというケースもあるかもしれませんね。

 

nadeshiko6

そういうこと。だから雅之くん、帳簿をチェックする際に物品切手が出てきたら、このようなことを考えながらチェックしていく習慣を身に着けていってね。